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第26回●西條八十「人間の証明」

 続いては、森村誠一のベストセラー推理小説「人間の証明」だ。

 西條八十が子供向けの雑誌「コドモノクニ」の創刊2号(大正11年)に掲載した詩、「ぼくの麦藁帽子」が映画の中で印象的に使われていることは多くの方がご存知だろう。そのためにこの詩は突出して愛されているようである。

 この詩は森村が山登りに行ったとき、たまたま目にしたお弁当の包み紙に書いてあったのが印象に残り、いつか使おうと思っていたのだという。しかしあまりにインパクトが強すぎたせいか、その後、コマーシャルに使われたり、さんざんパロディー化されたりしている。

母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?
ええ、夏碓氷から霧積へ行くみちで、
渓谷へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ。
僕はあのとき、ずいぶんくやしかつた、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき向こふから若い薬売りが来ましたつけね。
紺の脚絆(きゃはん)に手っ甲をした。
そして拾はうとしてずいぶん骨折つてくれましたつけね。
だけどたうたうだめだった。
何しろ深い谷で、それに草が背丈ぐらゐのびていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子どうなつたでせう?
そのとき傍で咲いてゐた車百合の花は、
もうとうに枯れちやつたでせうね、
そして、秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

母さん、そしてきつと今頃は

今夜あたりは、あの谷間に、静かに雪が降りつもつてゐるのでせう。
昔、つやつや光つた、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いたY.Sといふ頭文字を埋めるやうに、静かに、寂しく

 ともあれ[あらすじ]はこうだ。

 ニューヨークのスラム街で、車にはねられそうになり、白人から金を受け取った黒人青年が「キスミー」とつぶやきながら東京へ向かった。

 赤坂の高層ホテルにある42階では人気女性デザイナー・八杉恭子(岡田茉莉子)のファッションショーが行われていたが、展望レストランにエレベーターが昇ってゆき、扉が開くと黒人青年が胸を刺されて死んでいた。

 直ちに所轄の麹町署から刑事が飛んでくる。そして被害者はジョニー・ヘイワード(ジョー・中山)という青年だと突き止める。ホテルまで彼を乗せたタクシーが見つかり、エレベーターガールらの証言から、彼は「キスミー」とか「ストウハ」という訳の分からない言葉をつぶやいていたというのだ。彼は死んだとき西條八十の詩集を握り締めて。後にわかるのだが、それは幼い頃生き別れになった母親を探す手掛かりだった。

 一方、ホステスのなおみが、車にはねられて死んだ。はねた運転士・恭平は八杉恭子の息子だった。なおみを山林に埋めたが、母の恭子はそれを知って国外に逃亡させる。

 ニューヨーク市警からの連絡で、ある車にぶつかってきた男から6千ドルを要求され、その息子ジョニーに渡したということが分かる。

 棟居刑事(松田勇作)たちは、立ち寄ったおでん屋で酔った客が口ずさんでいた詩を聞いて「キスミー」とは「霧積」の聞き違いではないかと考える。棟居刑事はニューヨークに飛んで事件の核心を掴む。こうしてアメリカと日本の刑事たちの捜査がやがて1本の糸に結び合わさってゆくのだった。

 最後のシーンで八杉恭子がこの詩を口ずさみながら、霧積高原から身を投げる場面などは非常に印象的だ。

 さて、西條八十については、歌謡曲の作詞家や童謡作家として知られているが、その出発点は象徴詩人としてであった。

 「若鷲の歌」「同期の桜」といった軍歌もある一方、戦後の民主化に迎合するように「東京行進曲」「青い山脈」や「蘇州夜曲」という一世を風靡した作品も作っている。非難を承知で言わせてもらえば、八方美人の?何でも屋?に感じられるのは筆者だけだろうか。

 1898年、東京府に生まれる。早稲田高校(当時は中学)在学中、すでに文学で身を立てると先生に公言していたという。

 早稲田大学在学中に日夏耿之介らと同人誌を出している。1919年に処女詩集「砂金」を自費出版し、評判をとる。その後フランスのソルボンヌ大学に留学し、ポール・ヴァレリーらフランスの芸術家たちと親交を重ねたという。

 帰国してから母校の教授にもなっている。

 世界大戦中には従軍記者として中国の南京に行き、「大虐殺」の様子をそれとなくこう書いている。

 「ぼくは南京入城の前日、あのむごたらしい大虐殺を目のあたり見て、心にもう血の洗礼は受けていた。従軍とはいうものの、まかり間違えば殺されるか、捕虜になるかもしれないとは覚悟していた。だから東京を出るとき、将校である甥から、コルトの拳銃を借りて、腰にぶらさげていた。」(西條八十全集17から)

 八十の功績のひとつに、金子みすゞを見出したことが挙げられる。日本芸術院会員。1970年没。


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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