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第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

 これもまた、映画の中に詩は出てこないが、ちょっと変わった作品なので引き出しから出すことにした。

 ボルヘスの本名はホルヘ・フランシスコ・イシドロ・ルイス・ボルヘス・アセベードという(1899〜1986)。夢や迷宮といった幻想的なテーマを得意とする、アルゼンチンの詩人であり作家だ。20世紀のポストモダン文学への影響は大きい。

 詩集も「ブエノスアイレスの情熱」「創造者」「夢の本」「闇を讃えて」「永遠の薔薇」「鉄の貨幣」と、たくさんある。

 残念ながらここでは短編小説「デス&コンパス」を映画化したものを紹介する。

 この作品は、ボルヘスらしく、人間の深層心理に入り込んだミステリーだ。

 [あらすじ]

 どことは特定できない近未来のある国。そこは犯罪がはびこり、堕落しきった街だった。

 ある日、ダウンタウンのホテルでユダヤ人のヤルモリンスキー教授が死体で発見された。トレヴィラヌス警察署長が駆けつけ現場検証をした。その結果同じホテルに投宿している宝石商と間違って殺されたのではないかと推理した。

 それで一件落着かとおもいきや、敏腕警部ランロットは、タイプライターに残されていた「御名の第一の文字は語られた」という紙を見つけ、これが事件を解くカギでは、と睨んだ。

 そして現場に残されていたユダヤ教の聖典教義書が事件に関わっていると目星をつけた。第一発見者のユダヤ新聞記者ズンズを取り調べた後釈放する。 

 すると第二の殺人事件が起きる。殺されたのは悪徳政治家として有名なアゼベードだった。そしてそこにも「第二の文字は語られた」というメッセージが。

 第三の殺人は犯罪地帯のトルヴェルト街。そこでも同じ「第三」のメッセージが残されていた。深まる謎にランロットはあるヒントを導き出す。

 「聖典にあるユダヤ教神の言葉は四つ」、ならば第四の殺人は::。ランロットは地図とコンパスを出して次の殺人現場を割り出す。

 完全なミステリーだが、どこか神秘主義の匂いが漂ってユニークな味わいを醸し出している。

 ボルヘスはブエノスアイレスの中産階級の家に生まれている。父は弁護士だった。書庫には5000冊の書物があり、父方の家系には文学者や詩人がいたというから、もともと文学の素質があったようだ。

 第一次世界大戦直前に一家でスイスに移住したが1921年には帰郷している。

 1923年に処女詩集「ブエノスアイレスの情熱」を出版。

 1938年に自宅で頭に大怪我を負い、言語能力を失ったかもしれないと心配したボルヘスは詩ではなく短編小説を書くようになる。ボルヘスは生涯長編小説を書かなかった。最も長い小説「会議」でも、わずか十数ページである。その意味でも、本質は詩人だったと言っても過言ではないだろう。

 1946年に独裁者ペロンが政権を握ると、反権力的だとされ仕事(当時は図書館職員だった)をはずされた。以来毎日刑事に尾行されていたという。母は自宅軟禁、妹と甥は投獄の憂き目を見る。その頃アルゼンチン作家協会会長に選出され、これでなんとか失業から脱出でき講演などで生計をたてる。

 1955年にペロンが革命で失脚すると、ようやく10年間の苦しみから解放されることになる。しかし好事魔多しで、父からの遺伝による眼の病気が悪化し、晩年は失明している。1986年、肝臓がんのために死去。

 いずれにしても、天性の詩人はその幻想的な世界を最後まで貫き通した。映画「デス&コンパス」にも、詩こそ出てこないが、その不可蝕領域のような精神はいかんなく発揮されていると言っていいだろう。作品を一篇紹介する。

今朝は、
楽園の薔薇の
信じがたい芳香が漂っている。
ユーフラテスの岸辺で
アダムは水の冷たさを知る。
黄金の雨が空から堕ちてくる。
これはゼウスの悪だ。
一匹の魚が海で跳ねる。
アグリゲェントゥムの男は思い出すだろう。
かつての自分がその魚であったことを。
いずれアルタミラと名付けられる洞窟で、
顔を持たない手が野牛の
反った背中を描く。
ウェルギリウスのゆったりとした手が、
黄帝の国から、
隊商や船によって
運ばれてきた絹を撫でる。
最初のナイチンゲールがハンガリーで鳴く。
イエスは金貨にカエサルの横顔を見る。
ピュタゴラスはギリシア人らに、
時間の形式は円環のそれであると教える。
大海原のある島で、
銀の猟犬たちが金の鹿を追う。
シグルトに忠節を尽くすことになる
剣が鉄床で鍛えられる。
ホイットマンがマンハッタンで歌う。
ホメーロスが七つの都市で誕生する。
白い一角獣を、
たった今、若い娘が捕らえた。
過去の一切が波のように打ち返し、
あの懐かしいものが甦る、
一人の女性がきみに与えた口付けのお陰で。
            (ボルヘス詩集より「賛歌」。鼓直訳)


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

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第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

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第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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