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第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

 この詩人も忘れたら怒られるだろうな。

 エドガー・アラン・ポー(1809〜1849年)といえばゴシック小説「アッシャー家の崩壊(惨劇)」や、推理小説「モルグ街の殺人」といった、誰でも一度は読んだり耳にしたことがある作品で有名だが、詩人でもあるということを忘れてはいけない。

 その中でもとり分け有名なのは1845年に発表された「大鴉(The Raven)に止めを刺すだろう。全体が神秘的な雰囲気を持ちながら、様式美がきっちりとしていて、もちろん韻を踏んだ音楽性が人々を惹きつけてやまない。

 この詩は各々6行の18連から出来ていて、構造的には強いアクセントの音節を弱いアクセントが繋ぎ、その韻脚を1単位として×8で1行となるスタイルをとっている。

 ポーは最初この詩を「グレアムズ・マガジン」というところに持ち込んだが断られ、やむなく「ザ・アメリカン・レヴュー」誌に持ち込んでわずか9ドルの対価を得たとされる。そして出版前に「イブニング・ミラー」という新聞に見本として掲載され、それが話題となったのが初出である。

 コーロッパではボードレールがポーの詩を翻訳し、フランス象徴詩に大きな影響を与えることになったことは言わずもがなだろう。

 さて、映画の話になる前にポーの人生をサラっとおさらいしてみよう。ポーはマサチューセッツ州ボストンに、俳優ディヴィッド・ポーと女優エリザベスの間に次男エドガーとして生まれた。エドガーの名はシェークスピアの「リア王」からとったと言われる。人生は生まれた時から厳しいものだった。父親のデイヴィッドは巡業公演のあと行方をくらます。理由は分かっていない。その時エリザベスはエドガーの妹・ロザリーをお腹に抱えており当然困窮した。そのせいかどうか、翌年、出産後に結核で亡くなっている。つまりエドガーたちは幼くして両親を失ったわけだ。

 エドガーだけは父の友人でもあった商人のアラン家に望んでもらわれ、兄妹とはバラバラになる。一時はイギリスに渡り寄宿舎生活を送るも、義父の商売が失敗しリッチモンドに戻ることに。1820年にトーマス・ジェファーソンが設立したヴァージニア大学に入学。そのころ失恋を経験したり、学費を稼ぐためにトランプ博打に手をだして2000ドルもの大負けをしたこともあった。

 結局借金のために大学は辞めざるを得なくなり、新聞記者や店員などのアルバイトで食つなぐ。この時18歳だったが22歳と嘘をついて陸軍に入隊もしている。

 1827年、第1詩集「タマレーン、その他の詩集」を自費で出版するがまったく反響はなかった。陸軍を除隊後、自ら希望して士官学校に入学。その後第2詩集「アル・アーラーフ、タマレーン、および小詩集」、第3詩集「ポー詩集」を出版している。ちなみにアル・アーラーフというのは、一瞬のうちに消えてしまう幻の星のことだ。

 義母を亡くしたあと、義父が再婚するに際して口論となりポーは勘当されることとなる。26歳の時には従妹のヴァージニアと周囲の反対を押しのけて結婚しているが、この時彼女は13歳だった。

 貧困生活は生涯続いた。さまざまな雑誌の編集者を務める傍ら小説を発表して名声だけは上がりつつあったが、1849年10月ボルチモアでメリーランド州議会選挙の最中、投票所でもあった酒場で他人の服を着たまま泥酔状態で見つかり、4日後に亡くなった。わずか40歳であった。今でもなぜ死んだのかは、彼の推理小説さながら謎のままである。まるでその謎を誰かに解いて欲しいと言わんばかりに。

 さて本題だが、小説は映画に向いている題材のせいかたくさん作られている。ここでは映画の中の詩、ということから「大鴉」にちなんだものを見てみよう。

 1963年に作られた「忍者と悪女」(邦題)はロジャー・コーマン監督の手になるもので、そもそも「大鴉」が原作だ。ティム・バートンが作ったアニメーション「ヴィンセント」では、主人公ヴィンセント・マロイが横たわり、ダイイングメッセージを「大鴉」の詩を引用してしゃべっている。

 バートンはどうやらポーのファンらしい。1989年の世界的ヒット作「バットマン」でも、悪役になったジョーカー役のジャック・ニコルソンが同じ詩を口ずさむ場面を設定している。ヒット作だけに、記憶される方も多かろう。

 ブルース・リーの息子ブランドン・リーの死で衝撃的な話題をさらった「クロウ 飛翔伝説」(アレックス・プロヤス監督、1994)や「クロウ」(ティム・ポープ監督、1996)もある。

 特に「―飛翔伝説」での悲劇の主人公エリック(ブランドン・リー)が劇中で呟く「突然、叩く音が聞こえたんだ。誰かがやさしくトントンと、僕の部屋のドアをノックした。僕が叩くのを聞いたって本当?」というセリフが「大鴉」からとられていることは明白。この映画では、撮影に使う空砲のはずの銃に弾が込められていて、その銃に撃たれて撮影の最中にリーは28歳という若さで死んだのだから、まるで呪われた不吉な詩、という印象そのものではないか。

 1994年作の「ページマスター」でも、ジキル博士とハイド氏の城に入ろうとして、マコーレー・カルキンが大きなカラスに襲われ「ネヴァーモアー」と叫ぶ場面があるが、もちろんこれはポーの詩へのオマジーュに違いない。

 他にも「大鴉」を題材にした映画はあるが、きりがないのでこれくらいにしよう。

[あらすじ]

では、その中からティム・ポープ監督の「クロウ」を取り上げてみる。「―飛翔伝説」ではなく、なぜこちらなのかというと、個人的には「クロウ」の方が原詩のイメージに近いと考えるからだ。ただしストーリーの骨格は両作品ともよく似ている。

 近未来。物語はロサンジェルスの街が舞台だ。すでに太陽の陽がささなくなって荒廃してしまっていた。

 アッシュ(ヴァンサン・ペレーズ)はある日、街を牛耳るストリート・ギャングたちが殺人現場を目撃してしまう。そのためギャング団はアッシュと、その小さな息子ダニー(エリック・アコスタ)まで捕まえふたりを無残にも水死させた(「―飛翔伝説」の設定ではロック・ミュージシャンのブランドン・リーは恋人と殺される)。

 だが無念さゆえに<クロウ>と呼ばれる、死者の魂を復活させるカラスの不思議な霊力によって、この世に蘇る。しかも不死身となって。

 一方、サラ(ミア・カーシュナー)も恋人と共に殺された過去があったが、やはり<クロウ>の力によって生き返り、現在はタトゥー・アーティストとなっていた。そして、ふとしたきっかけからアッシュと出会うことに。アッシュは自分がなぜ蘇ることができたのか理解していなかった。そこでサラが、自分たちはカラスの霊力によって生き返ったのだと教える。そしてダニーが使っていた絵の具で復讐心を煽るためにペインティングし、アッシュを<クロウ>に変身させるのだった。

 アッシュは、自分たちを殺したギャング団のボス、ユダ(リチャード・ブルックス)の部下たちを次々倒してゆく。しかしユダも反撃に出る。サラを捕まえると、クロウの正体を吐かせ、カラスの霊力さえ奪えば再び殺せると考える。

 アッシュはまんまとユダに捕まり、見せしめに絞首刑となる。だがその苦痛がアッシュに力を与えることになった。突然無数のカラスが出現すると、たちまちユダを喰い殺してしまう。復讐を遂げたアッシュは、息子ダニーのもとへ帰ってゆくのだった。

 なんともSFチックな筋立てだが、陽のささないダークな街という設定などは、ちゃんとポーの詩の精神をなぞっている訳だ。

 最後に、その「大鴉」の一部を載せてみたいのだが、これが少々やっかいなのだ。というのは先に書いたように様式化された音楽性と、メタファー溢れた文章が古文体で書かれているので、翻訳者泣かせなのだ。古くは日夏耿之介などの訳もあるが、原詩の格調を重視して訳すと意味が解りづらくなり、また意味を重視すると作品本来の格調が失われるというジレンマがあって、翻訳を躊躇してしまうというのが実情なのだ。

 まあそんなわけで、次の訳は上滑りの素人訳と考えていただきたい。

孤独に満ち溢れた深夜だった、私は考え込み、そのため、疲れ果て
たくさんの奇妙で、それでいて物珍しい伝承の忘れ去られた本を開く
眠りにつくころ、まどろんでいると、不意に何かが来て叩く
何者かが優しくコツコツと、私の部屋の扉をコツコツと叩いている。
私はつぶやく「来客がそこにいるのか」と。「部屋の扉がコツコツと叩かれている
それだけのことか、――他には何もない。」
私はハッキリ覚えている、それは寂しい12月のことだった。
そして、消かかった小さな火が、床の上に亡霊を照らし出す。
ただ夜明けを願った。本を開くことで、
悲しみを断ち切ろうとするが、虚しい。レノアを失ったその悲しみを。
天使たちがレノアと名づけた乙女よ、たぐい稀なる輝く天使よ。
今は名こそなくなってしまったが。
つやつやとした悲しみ、それをとりまく紫のカーテンのざわめき。
私はおののいた。それは今までに感じたことがない戦慄のなせるわざ
いまは心臓の鼓動を高ぶらせながら、立ち尽くすばかりだ
「私の部屋の入り口で入れて欲しいと哀願する訪問者は誰か・・・
私の部屋の入り口で入れてくれと哀願する遅く訪ねてきた者は誰か・・・
それだけのことか、他には誰もいない」
そして18連目となる最終連はこうくくられる。
大鴉は身動(じろ)ぎもせず、静かに座りつづけ、居続けている。
私の部屋の扉の上、アテナの青白き胸の上で、
かつて夢見た魔物の眼差しそっくりの眼をそなえていた
それはランプの灯りが大鴉の影を床の上に浮かび上がらせる。
床の上に揺らめくその影から離れている、それは私の魂そのもの
それは立ち上らない。 「Nevermore(二度と)」

 つくづく詩の解釈とは難しいと感じる。理屈ではなくイメージで捉えるしかないのだと思う。こうした詩の精神を損なわないように注意しながら映画を創る、あるいは挿入することの難しさとともに。


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

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