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第18回●パゾリーニの作品群

 ここで少し趣を変え、ピエール・パオロ・パゾリーニ(1922〜1975)について書いてみる。彼は「アポロンの地獄」「テオレマ」「デカメロン」「カンタベリー物語」などで世界的に有名な映画監督だ。また彼は詩人でもある。

 こうした詩がある。病み上がりの詩人が窓からふたりづれの若者を見かけ、そこから宗教的な追憶へと入ってゆく。

豊かな郊外の、海の色した穏やかな
空のあふれるテラスや、
麻の気配のバルコンや、はやくも夕べの

日射しで金色に輝く屋根裏部屋の小窓の下を・・・
蘇ってくる生命の感覚――
あの頃はいつも同じだったが、一つの痛み、

驚くばかりの優しさのみなぎる、とはいえ一層
盲目的な。なぜなら孤独な少年にとっては、
我が身にかつてあった験しのなかったことは

 これは彼の長編詩集「現代の信仰」の第二章の一部だが、続く第三章になると、それまでの抒情性は失われ、あからさまに教会に牙をむく。いや、教会だけでなく、既存の保守的社会の制度そのものに、だ。

歴史はある永遠の起源で途切れていると
信じているものに! また教会が
創造的なあらゆる時代の遺産相続人であることや、

またこうして制度化された善を守るということは
灰いろの、おぞましい、動物的な単調さが
人間の内部の光と闇とを押しつぶす

ことだということを知らない輩に!
禍よあれ、無知なるもの! キリスト教の
このような信仰はブルジョワ的だ。

 そして最後の行で「教会とは国家の冷酷な心臓なのだ」と結ぶ。彼の映画作品が詩にインスパイアされていることがよく分かる。

 この詩は六章に分かれていて、右のものは米川良夫訳である。

 映画監督自身が詩人であり、これほどダイレクトに自分の世界を描くのだから、へたな解説や批評家はいらないだろう。詩の中にローマ教会への激しい批判が入っているが、このことからもパゾリーニの思想やスタンスが鮮明に分かる。

 特に映画をご覧になっている方はご存知だろう。倒錯したセックスやイデオロギーなどを通して、腐敗した貴族階級と権力の権化と化した教会に対する怒りがそのままストレートに作品に投影されているのだ。

 例えばそれらの批判を擬人化した1969年の映画『豚小屋』を鑑賞してみるとよく理解できる。豚が人間をきれいに食べちゃうのだから凄まじい。

 これほどのアイロニーはない。歴史的にも権力を握ってきた教会というものの存在、神という隠れ蓑を利用して無辜な人民を誘導してきた「善に見せかけた悪」というものがたまらなくいやだったのだろう。そうでなければこんな凄い発想などできはしない。

 軍人だった父親がファシストであり、ムッソリーニの命を救ったことがあるというから筋金入りである。その反発からか、パゾリーニはコミュニズムに傾倒していき、戦後共産党に入るわけだ。

 「彼がその人生の朝に、夕に、昼に、夜に語った数しれぬフレーズは、無限の静かな淵へ落ち込む。けれどもこれらのフレーズのいくつかは抗い、奇跡のように記憶の中にエピグラフとして刻み込まれて、朝方の光のなか、夕暮れのやさしい暗がりのなかで宙に吊るされている。そして妻や友人たちが、それらを想いうかべて、涙を流す。あるフィルムのなかに止まるのはこれらのフレーズだけである」

 これは花野秀男訳によるパゾリーニの評論集「異端的経験論」の一節である。

 しかしこうしたことが元で、1975年『ソドムの市』の撮影終了直後、右翼の怒りを買い、ローマ郊外の海岸で殴られたうえ車に轢かれて殺されるという悲劇が待っていた。

 真相はいまだに解明されていないのだが、皮肉にも後年、この謎めいた殺人事件を題材にしたアウレリオ・グリマルディ監督による「パゾリーニ・スキャンダル」という映画までできている。それだけミステリアスで世間も関心の高い事件だったということか。

 またル・クレジオがこんなことを言っている。

 「ことばによって映画を論じることはむずかしい。それは麻薬を服用しながら、その間に起こることを記述するときの困難に似ている」

 「その理由はフェリーニにとって人間的真実など存在しないからだ。(中略)フェリーニの描く社会は、不安定な社会である。その理由はまず、この社会が崩壊しつつある社会だからである。腐敗し、堕落し、泥酔し、顔をゆがめている」(及川馥郁訳)

 これは詩人ではないけれどパゾリーニと同時代の、映像の魔術師と異名をとった映画監督フェデリコ・フェリーニ(1920〜1993)の人間を見つめる観察力のことを、作家のル・クレジオが指適した言葉だが、それは同時にパゾリーニにもあてはまる言葉なのだと思う。

 フェリーニの「甘い生活」「8 1/2」「サテリコン」を見ればそのことが一目瞭然であり、結論からいえばパゾリーニが「女王メディア」の中で「神話的なものだけが現実的であり、現実的なものだけが神話的だ」と語らせたことが端的にそれを物語っているといえよう。

 ここにふたりのグロテスクな戯画としての詩的共通点があるのだ。ちなみにふたりは「カビリアの夜」という作品を共同脚本で作り上げたこともある。


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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