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第35回●吉増剛造(1939〜)

 いよいよ現代で活躍する詩人に登場願いましょう。

 吉増は文学者や芸術家にゆかりのある土地を訪ねて、詩の朗読をしたり即興的に言葉を組み立てパフォーマンスライブをしたりと、詩の創作活動以外にユニークな活動をすることで知られている。

 追跡して調べてみると、キーワードは「歩く」ことのようだ。

 それは商業映画とは一線を画す、個人映画を通じて究極のアーティスティックな形を残そうとしている試みにも思える。

 個人映画とは「個人が絵画や彫刻を制作し、詩や俳句や短歌を書くように、映像によって表現された作品」だと言う。

 その吉増が撮った作品のよい例が、2004年にNHKハイビジョンビデオの『島ノ唄』だろう。

 出演者は島尾ミホ、里英吉、松田栄喜に吉増本人も顔を出している。

 映画の冒頭で草をかき分け、昔、女たちが水を汲んだという洞窟へ入ってゆくシーンでは草、水、虫の声、吉増自身が語る江戸弁だけが聞こえている。これは無駄な音楽を排し、見る側の感性に委ねるという思惑がある。

 沖縄には昔から「交わる」「引く」という文化がある。これをうまく証明することで、島国とはなんだろうという意味を問いかけている。

 突出しないでうまく周囲に溶け込みながら生きてゆきなさい。決してでしゃばることをしてはいけないのだよ――と子供時代に教えられたことを忠実に守っている島の生き方を記録しているだけなのだ。

 いみじくもNHKの元テレビ・ドキュメンタリー番組プロデューサー、伊藤憲監督が語っている。「島国ってなんだろう、という疑問を吉増の背中を追いながら考えた」と。

 ここに出演している島尾ミホとは、いわずもがな、島尾敏雄未亡人である。この中で吉増と対話する場面が出てくるが、それは全て映像を通して見た「島国」の正体である。

 そもそも吉増が映画と出会ったのは、少年期に遡る。

 父親の仕事の関係で、当時住んでいた青梅の青梅キネマによく出入りしたという。スクリーン裏で寝ていたこともあるというから相当なものだ。何となく「ニューシネマ・パラダイス」の少年を連想する。

 昭和20年には福生に洋画専門の「セントラル」と邦画専門の「テアトル」ができたので、もっぱらそちらの方へ行ったという。福生といえばアメリカの進駐軍基地があり、今では想像もできないくらい賑やかだったようだ。

 こうして吉増は映画にのめり込んでゆく。後年の話になるが、昭和63年には、映画評論誌「シネ」を天沢退二郎、渡辺武信、岡田隆彦といった詩友たちと発刊までしている。

 この?焼けぼっくい?に火がついたのには訳がある。

 青土社のある編集者が、アテネ・フランセで映画を見て、それに毎回、吉増剛造に詩を書いてもらおうというシリーズを考えたそうだ。

 吉増もそこでロシアの著名な映像作家アレクサンドル・ソクーロフを知り、虜になったという。

 「映画芸術427号―2009年4月」によると、吉増は85年にジョナス・メカスと出会い、メカスが90年に撮った「ザ・テーブル」というビデオ日記の作品に、アレン・ギンズバーグと共に登場している。

 吉増が撮った3本目の作品『花火の家の入口』は、彼がサンパウロ大学で客員教授をしていた時のものだが、ブラジルへの再訪の旅を記録したものといえる。

 吉増には同名の詩の作品がある。これには、あきるの市を流れる秋川が登場するが、当時テレビや新聞、週刊誌などで猟奇的なニュースとして大々的に報じられた幼女連続殺人の「宮崎勤事件」との関連が伺われる。

 さらに付け加えるならば、「鏡花シリーズ」というものがある。

 これは作家・泉鏡花が愛した水について、根源的に見つめ極めるというのがテーマのもので、「水をみつめる吉増の眼差し」が鋭い。自然環境への警告と取れなくもない。ここではまた、マルグリット・デュラスの「インディア・ソング」へのオマージュとしての引用や、現代作曲家ジョン・ケージの音楽との関連も見逃すわけにはいかないだろう。

 吉増剛造。彼は映像が生み出すクリエイティブな声を、総括できるものとして、その役割をちゃんと心得ている詩人だと思う。

ぼくは詩を書く
第一行目を書く
彫刻刀が、朝狂って、立ち上がる
それがぼくの正義だ!

朝焼けや乳房が美しいとはかぎらない
美が第一とはかぎらない
全音楽はウソッぱちだ!
ああ なによりも、花という、花を閉鎖して、転落することだ!

一九六六年九月二十四日朝
ぼくは親しい友人に手紙を書いた
原罪について
完全犯罪と知識の絶滅法について

アア コレワ
なんという、薄紅色の掌にころがる水滴
珈琲皿ニ映ル乳房ヨ!
転落デキナイヨー!
剣の上をツツッと走ったが、消えないぞ世界!

 これは「朝狂って」と題する詩だが、目に見えるものだけが正しい訳ではないと行っている。それはレンズの向こうにある”虚構の世界?を引き寄せ、その裏側の真実を暴こうとしているかのように見える。

 商業映画では出来ない真実の眼を白昼に晒す、と言っては言い過ぎか。

 2011年の夏には「吉増剛造映像作品2006〜2011 予告する光」と題して全52作品を21日間にわたり上映した。


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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