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第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

 文豪ゲーテを主人公にした映画は、不思議なことに欧米でもこれまで作られてこなかった。なぜかというと、彼があまりにも様々な分野で活躍し、万能の天才というイメージが強すぎ、偉大すぎたからだということらしい。
 例えば詩人、小説家、戯曲作家、哲学者は言うに及ばず、自然科学者、法律家として、あるいは政治家としても足跡を残しているからだ。
 文学者という肩書きの影に隠されてあまり知られていないのだが、枢密顧問(法律家)、ヴァイマール公国の大臣、ローラースケートの発明者、咽頭の骨の発見者、リンネの分類学を批判し、「形態学」を提唱した学者としても名を残す。これなどは、のちのダーウインの「進化論」の先駆けとされているほどなのだ。当時、ことほど左様にいろいろの分野で名をなした凄い人は他にいないだろう。
 少年のころ、すでに英語、フランス語、イタリア語、ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語を習得していたというから恐ろしい。神童というのは実在するようだ。

 ではざっとその一生をおさらいしてみよう。
 正しくは、ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテという。1749年、ドイツのフランクフルト・アム・マインに裕福な家庭の長男として生まれている。父は法律家だったので、ゲーテもそれを継ぐのは当然、という時代だった。
 16歳でライプツィヒ大学法学部に入学。3年ほど通ったが病気(一説には結核といわれている)のためにやむなく退学している。この在学中に、アンナ・カトリーナ・シェーンコプフという3歳年上の女性に恋して「アネッテ」(1767年)という処女詩集を出している。
 1770年に、シュトラスブルク大学に。この時文学の下地ができたと言われている。あろうことか、フレデリッケ・ブリオンという牧師の娘に恋したことから「野ばら」「五月の恋」という叙情詩が生まれている。
 22歳でフランクフルトに戻り弁護士資格をとって事務所まで開くが、文学に没頭したために、父親から「法学を再習得してこい」とヴェッツラーという田舎町の裁判所へ司法修習生として追いやられてしまう。映画ではここから物語が始まるのだが、それは改めて述べよう。
 この町で15歳の少女シャルロッテ・ブッケと舞踏会で知り合い恋に落ちる。のちにこの失恋の痛手から、名作「若きウェルテルの悩み」が生まれることになる。名作とは得てしてこうしたきっかけが多いようだ。“ひょうたんからコマ?である。
 先に進もう。このころから「ファウスト」にも着手したとされる。1774年には新しい恋が。今度は名門銀行家の娘、リリー・シュネーマンとだ。婚約までするが、宗派や考え方の違いから結局婚約は解消してしまう。
 翌年、ヴァイマール公国のカール・アウグスト公から招請を受け受諾する。この時アウグスト公はまだ18歳で、ゲーテを兄のように慕ったとか。
 今度は7歳年上の33歳で7人の子持ち、シャルロッテ・フォン・シュタイン夫人と恋愛する。これは十数年続いた。
 1788年にクリスティアーネ・ヴルピウスとい23歳の女性と仲睦まじくなる。彼女は後年正式に入籍し妻となるのだが、身分の違いということから周囲から猛反対され内縁関係が長く続いた。
 この他にも妻の死後1807年に18歳のクリスティアーネ・ヘルソリープ、1821年(この時ゲーテは72歳!)にはウルリーケ・フォン・レヴェッオーという17歳の少女に熱烈な「老いらくの恋」をしたというから、ゲーテは女性が好きだったようだ。英雄色を好む? こんな詩がある。「恋のかたえ」(高橋健二訳)の一部だが、その叙情性は明白だ。

火のひかり海の面より照り返る時、
われ、おん身を思う。
月のひかり泉にゆらめき映ゆる時、
われ、おん身を思う。

遠き道の上にちりの舞いあがる時、
おん身の姿、我が目に浮かぶ。
ふくる夜、細き小みちに旅人のわななく時、
おん身の姿、我が目に浮かぶ。

 そろそろ本題の映画に戻ろう。『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』は、青年ゲーテの、傑作誕生までの物語だ。

[あらすじ]

 せっせと小説や戯曲を書いてはライプツィヒの出版社に送りつけ、そして送り返されてくる原稿。怒った父に家を追い出されるようにして田舎町ヴェッラーの裁判所に着くゲーテ。

 やる気のないゲーテに、最初は上司のケストナーももてあましていた。だがあるきっかけで意外にもきちんと仕事をこなすゲーテを認めざるを得なくなる。
 ある日舞踏会で酔ったゲーテ(アレクサンダー・フェーリング)に、ワインをかけた女性がいた。それがシャーロッテ・ブッフ(ミリアム・シュタイン)だった。出会いがそんなだから最初は互いにいい印象を持たなかった。だが、数日後、教会の歌声に誘われて友人のイェールザレムと出かけると、ロッテの素晴らしい独唱に心を奪われてしまう。
 家にまで押しかけ、ロッテの妹や弟と仲良くなり、次第に接近してゆくふたり。野原でロッテがゲーテに詩をねだると、しぶしぶ即興で詩を朗読したりする。
 しかしロッテの父親は、娘を名士でもあるケストナーと結びつけたいのだった。密かにケストナーを呼んで紹介する父。貧しいブッフ家にとって資金援助してくれる彼は救いの神だったのだ。ロッテは妹からそのことを聞き、ゲーテを諦め、涙をこらえてケストナーとの婚約を認める。
 そんなこととは知らないゲーテはケストナーに恋の手ほどきすら教えていた。
 一方、親友のイェールザレムは、人妻と恋に落ちて失恋、ピストル自殺してしまう。ゲーテもロッテが上司のケストナーと婚約したことを知り、自殺すら考える。ケストナーもロッテとのことでゲーテに決闘を申し込む。だがゲーテだけが違法の決闘をしたとして牢に繋がれてしまうのだった。
 (フィリップ・シュテルツェル監督、脚本。2010年ドイツ)
 ――この映画は、神格化されていた巨人が、実は女性にふられ、親に反抗し、青春をもがき苦しんだ生身の人間だったという、ゲーテ像を見せてくれている。
 このロッテとの愛が名作を書かせる動機になったわけだが、かのナポレオンも愛読者だったというから驚きだ。フランス革命の際、自分の心を冷静に保つのに役立ったとか。
 劇中のケストナーとの決闘場面は、実際にはなくストーリー進行上の創作だが、言葉で説明するより、その時の感情を表していて納得できるものだ。
 当時「若いウェルテルの悩み」が出版されて人気になると、それを見習って自殺者が増えたという社会現象のオマケまでついた。
 ともあれ、たくさんの恋をし失恋をするたびに、ゲーテは詩を書き残してきたのが分かる。詩集「アネッテ」(1767)、「ライネケ狐」(17949)、「ローマ悲歌」(1795)、「ヘルマンとドローテア」(1798)、「東西詩集」(1819)、そして「情熱の三部作」(1827)という訳だ。
 とりあえずゲーテの代表作のひとつ「野ばら」を載せておきたい。

野にひともと薔薇が咲いていました。
そのみずみずしさ 美しさ。
少年はそれを見るより走りより
心はずませ眺めました。
あかいばら 野ばらよ。

「おまえを折るよ、あかい野ばら」
「折るなら刺します。いついつまでもお忘れないように。
けれどわたし折られたりするものですか」
あかいばら 野ばらよ。

少年はかまわず花に手をかけました。
野ばらはふせいで刺しました。
けれど嘆きやためいきもむだでした。
ばらは折られてしまったのです。
赤いばら 野ばらよ。

 これは手塚富雄訳のものだが、近藤朔風氏による「童は見たり 野中のばら―」はシューベルトやウェルナーの曲につけられて歌われ有名だ。
 尾崎紅葉が「泣いてゆくヱルテルに会う朧かな」という辞世の句を残したことは知られている。日本にもそれほど影響があったという証だろう。



第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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