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第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

 では少し時代を遡ることにしよう。アイルランドのイエーツはどうだろう。
 彼はアイルランドのダブリンで生まれている。父は画家だったが、15歳までロンドンに暮らして、文学に目覚めた。
 08年にアカデミー賞監督賞など4冠に輝いた映画『ノーカントリー』(2007年)の中で「ビザンチウムへの船出」という詩が引用されている。
 本名ウイリアム・バトラー・イエーツ。1865〜1939年。神秘主義結社「黄金の暁教団」というところに入っていた。詩風はロマン派として知られている。
 この映画はアメリカの作家コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」という小説が原作だが、殺人者ハビエル・バルデムの衝撃的な暴力シーンが話題を呼んだのでまだ覚えている方も多いのではないだろうか。その人を殺す時のリアリティさには、正直「たまげた」。
 
[あらすじ]
アメリカとメキシコの国境地帯の砂漠。狩りに来ていたモスは、通りかかった一軒家の周囲にたくさんの死体と200万ドルがころがっているのを発見する。モスは周囲を見渡し誰もいないのを確認して、それをネコババする。

 だがそのお金は、麻薬取り引きに使われるはずだった。ちょっとした行き違いから互いに撃ち合い全員が死んでしまったのだ。
 それを知ったボスは非情な殺人者アントン・シガー(ハビエル・バルデム)にお金の回収を以来する。シガーは誰かがそれを持ち逃げしたことを知って、その結果モスが追われることになる。
 一方殺人の犯人を追っていた老保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)も、モスが何か事件の核心を知っていると睨んで追跡を始めたのだった。こうしてモスを追うシガーと老保安官は、やがて接近していく――。「ファーゴ」で絶賛を浴びたコーエン兄弟の監督作品だが、人間の欲望と社会の関係をあぶりだしていると誉れ高い傑作だ。
 また余談だが、缶コーヒーのコマーシャルの宇宙人役でも知られたトミー・リー・ジョーンズが渋い役をこなしていい味をだしている。
 それはともかく、映画の中で引用された詩の冒頭の一節はこうだ。

それは老いたる者たちの国ではない
恋人の腕に抱かれし若者たち
樹上の鳥たち
その歌とともに死にゆく世代たち
鮭が遡る滝も,鯖にあふれた海も
魚も、肉も、鶏も長き夏を神に委ね
命を得た者は皆、生まれ、また死ぬのだ(後略)

 イェーツが書いた当時の鬱屈した世相が映し出されていると思う。もちろん、この映画の核をなす生と死のはざまを生きる人間たちの欲望と重ねられているのだ。
 ビザンチウムというのはイスタンブールを指している。当時かの地は一般的にユートピアと考えられていた。だからイスタンブールに「天国」を見たのだろう。詩の冒頭の「それ」とは死を意味しているのだから。つまりこの詩は死への旅立ちを読んでいることになる。
 イエーツは人気詩人だから、他にも引用されることが多い。
 『ミリオンダラー・ベイビー』2004年。(こちらもオスカー4部門に輝く名作だ)だ。
[あらすじ]女性がボクシングをするなんて考えられなかった時代。裏町のさびれたボクシングジムを経営するフランキー・ダン(クリント・イーストウッド)は、あるひとりの女性(ヒラリー・スワンク)と出会う。それがトレーラーハウスでひっそりと暮らしていた若い女、ギラギラと闘志丸出しで、生きることに必死だったマギーだった。

 マギーは死んだ父親以外に愛されたことがなかったが、孤独から逃げ出そうとフランキーのジムの門を叩いたのだ。はじめは「女なんかに教えられるか」とトレーナーになることを拒否していたが、その意地と根性に根負けしてしまう。
 こうして周囲の偏見と闘いながら女性ボクサーを育て上げ、ついに世界チャンピオンとタイトルマッチをするまでになる・・・というストーリーだが、映画の中でフランキーが口癖のようにつぶやくシーンがある。
 この時の詩が「イニス・フリーの島」というイエーツの代表作とされるものなのだ。

ああ、夜明けにでも行こう、あの島へ
そしてあそこに小屋を建てよう
(中略)
ああ、あそこなら、いつかは心もやすらぐだろう
安らぎはきっと、ゆっくりくるだろう

 もちろんどちらの詩も映画のテーマに重なる言葉が含まれている。
 こちらも「安らぎ」とは心の静謐さのことではなく、この映画の最後に用意されている尊厳死を意味している。引用するにはピッタリだといえる。
 ただ当時、この映画はそうした部分に対して、保守強硬派の代表ともいうべき、キリスト教右派から猛烈な抗議があったという事実も付記しておこう。アメリカならではの現実である。
 補足になるが、クリント・イーストウッドが監督した「マディソン郡の橋」(1995年)でもイエーツの詩が使われている。
 イエーツは1923年にノーベル文学賞を受賞。「最後のロマン主義者、イエーツ訳詩集 加島祥造セレクション1」(港の人刊)などに詳しい。



第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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