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第33回●田村隆一「恋の罪」

 意外なところで、意外な詩に出くわすことがある。

 園子温監督の新作映画「恋の罪」を見たとき、思わずのけぞってしまった。園監督といえば「自殺サークル」「夢の中へ」「紀子の食卓」「ちゃんと伝える」といった衝撃作を続々発表し「愛のむきだし」(2009)ではベルリン国際映画祭などで多数受賞、「冷たい熱帯魚」(2011)はヴェネチァ国際映画祭に正式出品されるなど国内外で話題をさらい、今をときめく注目の監督だ。

 彼の「恋の罪」(2011)では、ストーリーの意味を解く鍵として、田村隆一の詩集「言葉のない世界」の中の「帰途」という詩が繰り返し口ずさまれるのだ。

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きていたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる苦痛
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる

 映画そのものは、人間の欲望と魂の自由への解放を願う女性が殺人事件に巻き込まれていくという、いわば不条理劇。ストーリーの元になったのは、昼と夜の顔を持ったエリート女性が、渋谷のラブホテル街で殺されるという90年代に実際に起きた事件である。

 そうした思いがけない猟奇的な事件に自分の詩が使われ、田村隆一もあの世でさぞかし驚いていることだろう。

[あらすじ]

 殺人課の女刑事・吉田和子(水野美紀)が不倫の最中、署から携帯電話に事件発生の知らせが入る。現場の渋谷区丸山町、ラブホテル街の奥まったあばら家に駆けつけると、首なし胴体と足がばらばらにされ、二体のマネキンと合体、服を着せられた無残な死体が。

 菊池いずみ(神楽坂恵)は、有名作家と結婚、周囲も羨む玉の輿と噂され、清楚で貞淑な妻を演じていた。しかし、夫はちっともかまってくれず、心の内は悶々とするものが鬱積してゆくばかり。

 意を決して、働くことを夫に願い出るとスンナリ承諾してくれた。さっそく近くのスーパーで働き始めるのだが、そこにアダルトビデオのスカウトマンが現れ、いずみをおだてて撮影を承諾させる。そこで初めはためらっていたいずみだったが、男に抱かれる喜びの中に、精神の解放を感じ、揺れていた心はついにはじけてしまう。

 そしていずみは、やがて渋谷の繁華街に派手な服装で現れるようになる。

 そこで知り合った男にデリヘル嬢となることをすすめられると、美津子と名乗る「たちんぼ」を生業にしている女に同じ匂いを感じ取り、運命的な出会いを喜ぶ。その美津子も、いずみの心の渇望を見抜き、いずみを悪魔のささやきで「わたしのところまで堕ちてこい」と誘う。

 美津子は何と、昼間は東都大学で教えるエリート助教授だった。しかし夜ともなるとラブホテル街をさ迷い歩き、男とセックスし、愛のないセックスの代償に金を取るという過激な別人格になるのだった。

 この大学助教授が、教室で生徒に詩の講義をするシーンで、田村隆一の「帰途」を朗々と朗読するのである。特に最後の4行はいつかいずみも覚え、「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」と口ずさみながら男に抱かれ堕ちてゆく。まさに人間の欲望の底深さを震撼させて、そら恐ろしくなる。

 もちろんR指定である。そうした作品に、詩を抽象的に使われた田村隆一は1923年に現在の豊島区南大塚で生まれている。生家は料理店だった。

 1939年に中桐雅夫の「ル・バル」に参加。その時鮎川信夫、三好戸豊一郎、森川義信らと懇意になる。それが縁となり鮎川と1947年「荒地」創刊。

 だが出版社に就職するもあまり社会適合型の人間ではなかったようだ。当時の部下だった後のSF作家・福島正実によると「あまり仕事はしない風流人だった」と評価しているのも、人間性がわかって面白い。

 処女詩集「四千の日と夜」は1956年に発行されている。62年の第二詩集「言葉のない世界」は高村光太郎賞を受賞する。これが映画「恋の罪」に使われたわけだ。

 その後「奴隷の歓び」で読売文学賞、「ハミングバード」で現代詩人賞などを受賞し、とりわけ現代詩人の中で重鎮的存在だった。

 田村隆一は小説やエッセイにも才能を発揮した。1998年に食道ガンのため死去。75歳だった。


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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