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第32回●高村光太郎「智恵子抄」

 高村光太郎の「智恵子抄」は数少ない人気のある詩集だ。

 映画も1957年と1967年(これは佐藤春夫の小説「智恵子抄」が原作になっている)の2度作られ、テレビドラマとしても繰り返し作られてきた。それは、このピュアな愛のカタチについて普遍的な意味があるからだと思われる。

 まず光太郎についておさらいしよう。

 光太郎は1883年(明治16年)彫刻家・高村光雲の長男として東京府下谷区(現在の台東区)に生まれている。弟は鋳金家・高村豊周、甥に写真家の高村規がいる。

 東京美術学校(現・東京藝大)彫刻科に入学。カエルの子はカエルになるはずだった。しかし在学中に与謝野鉄幹の「明星」に作品を書くなど文学にも接近してゆく。

 西洋画科に移った後、ニューヨーク、ロンドンと留学。日本の古臭い画壇に我慢できず父とも決別する。

 1914年(大正3年)に長沼千恵子と結婚。最初の詩集「道程」を出版している。だが、千恵子の家が破産すると、それが引き金になり千恵子の体に異変が。次第に健康状態が悪くなって行く。

 千恵子は統合失調症と診断される。ついに健康が改善しないまま1938年に千恵子は永眠する。

 41年に詩集「智恵子抄」として出版するが、日本は戦争の時代へ突入していった。

 空襲でアトリエが全焼したことから岩手県花巻の宮澤賢治の弟・清六の家に疎開する。戦後は戦争協力詩を書いたことを悔いて、この地に粗末な小屋を建て、以来7年間ひとりで住むことになる。

 その後、東京・中野に自宅兼アトリエを作り移り住んでいたが、1956年、肺結核のために死去した。これが光太郎の一生である。

 さて映画だが1957年版の「智恵子抄」を取り上げよう。

 高村光太郎は山村聡、千恵子は原節子。監督は熊谷久虎だった。

「あらすじ」

 光太郎は、高名な父との確執などから、荒れたデカダンスな生活をしていた。28歳にもなってそんな生き方しかできない自分自身をも責めた。

 そんな時、知人の柳八重子に、平塚雷鳥女史が創刊し世間でも評判の進歩的女性誌「青鞜」に印象的な絵を書いていた女性を紹介される。それが3歳年下の長沼千恵子だった。

 彼女は日本女子大の寮で生活していたときに洋画に興味を持ち、津田清楓らに師事し、洋画家を目指していたのだ。

 千恵子を知るに付け、童女のように純真無垢な心の持ち主であることにショックを受け、あまりに自分の荒んだ心と違うことに驚く。光太郎は千恵子の中に”菩薩?を見ていたのだ。

 当然、ふたりの心は急接近してゆく。光太郎は彼女の心に浄化されるとともに、彼女を支えて新しい生き方に踏み出そうと決心する。光太郎は、処女詩集を出版すると共に、晴れて千恵子を我が妻とする。

 しかし、千恵子の実家が破産したり、肋膜を病んだり、生活と芸術との板挟みに苦しんでいた千恵子の体をさらなる病魔が忍び寄っていた――。 

千恵子は東京に空が無いといふ。
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
千恵子は遠くを見ながらいふ。
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
千恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

 これは余りにも有名な『智恵子抄』の中の「あどけない話」である。

 この詩を読むだけでは、ふたりの苦しみなど皆目判らない。むしろ題の通りあどけないだけである。しかし、前編通して読めば、その凄まじいほどの、光太郎の千恵子に対する絶対的、献身的な愛の方程式が判るだろう。これほど全てをなげうってまで全身全霊をかけて愛したのは、裏返せば、自身を浄化したいからにほかならなかったのである。言葉を変えれば救われたかったのである。

 今でもこの詩集が色褪せないのは、現在も救われたいほど辛く苦しい人生を送っている人がいるからだという考えが、あながち穿ちすぎだとは言いきれないだろう。

 ついでと言っては語弊があろう。しかし、光太郎の代表作ともいうべき「レモン哀歌」を忘れては怒られそうだ。

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた。
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパーズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
千恵子はもとの千恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山嶺でしたやうな呼吸を一つして
あなたの機関はそれなりに止まつた
写真の前に挿した桜のかげに
すずしく光るレモンを今日も置こう

 ここにも光太郎の静かに慟哭する姿が投影されている。どこまでも千恵子が自分を救ってくれたのだ、真の生きる喜びを教えてくれたのだと、訴えていることが判る。

 映画では、いまや伝説の女優・原節子が美しく儚い千恵子を演じて涙を誘う。


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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