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第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

 宮澤賢治が生きていたら、きっとビックリしただろう。「こんな映画に俺の詩を使うなんて」と。いやいや、この映画の主人公の生き方に共感するかも?

 この映画は、資本主義社会、拝金主義社会、ルールに縛られた社会の、産業テクノロジーという悪魔に対して反発する青年が主役なのだ。かつてアメリカ社会を震撼させた爆弾魔、あの?ユナ・ボマー?ことセオドア・ジョン・カジンスキーを彷彿とさせる。IQ167、元カリフォルニア大学の天才助教授は、なぜ凶行に走ったのだろう。

 2012年公開、監督、豊田利晃。主演、瑛太。共演に窪塚洋介、草刈麻有。

[あらすじ]

 雪深い山奥のシーンから始まる。辺り一面人っ子ひとりいない白い世界。そこにみすぼらしい掘っ立て小屋がある。中では、ひとりの青年(良一=瑛太)がコツコツとテーブルの上で何かを作っている。手製の時限爆弾だ。

 完成するとそれを箱に詰め、日本を代表する企業宛に送る。

 ひと仕事終わると薪を割り、猟銃を肩に、獲物を撃ちに出かける。夜、寝床に入るとローソクの明かりの下で、自殺した兄から貰った本を読むのを日課としている。夏目漱石の「草枕」だった。

 そんなある日、良一の妹ミカナ(草刈麻有)が訪ねてくる。その目的は、父が亡くなると、兄のユキ(窪塚洋介)が自殺し、あとを追うようにして母ユリエ(松田美由紀)と弟ケンタ(KenKen)も死に、その一家離散した理由を尋ねることだった。

 良一はミカナに一冊の本を渡す。宮沢賢治の詩集だった。本をめくると間に挟まれた一枚の写真が出てくる。それは一家が幸せだった頃、全員がテーブルを囲んで食事し、微笑んでいる一家団欒の写真だった。それから、良一は冷たく「出て行け」とミカナを突き放す。

 ラストに近いシーン。新しい爆弾を作った良一は声明文を書くが、それを火にくべてしまう。そして代わりに賢治全集の中の詩の1ページを引きちぎると、爆弾と一緒に箱に詰める。それから顔に白いクリームケーキを塗りたくり、異形の者となって都会に出てゆくのだった・・・。

 良一の日記にこう書かれている。

 「現代社会に生きる人間は規則や規定のひもで縛られており、個人の運命は常に当人の希望などほとんど届かないところで決定され、それで満足に感じるように仕向けられている。それは人類への屈辱にほかならない。たったひとつの逃げ道は、産業テクノロジー社会を丸ごと放棄することであり、それが唯一の革命だ。食べてしまったケーキはとっておくことはできない。悪臭にまみれた社会システムを放棄するのが最良の道である」

 テーマは明瞭だが非常に重い。劇中で瑛太が読む賢治の詩は「告別」というものだが、まさに社会への告別を象徴しているのだろう。その詩は53行からなっている。その一部を書き出してみよう。

おまえのバスの三連音が
どんなぐあいに鳴っていたかを
おそらくおまえはわかっていまい
その純朴さに充ちたたのしさは
ほとんど俺を草葉のように顫わせた
 (中略)
云わなかったが
俺は四月にはもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけわしいみちをあるくだろう
そのあとで、おまえのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはもうおまえを見ない
 (中略)
もしも楽器がなかったなら
いいかおまえはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガンを弾くがいい

 この詩について注釈をしておくと、この中で「おまえ」と呼んでいるのは、賢治が音楽の才能を期待したとされる教え子、高橋武治のこと。彼もまた結局社会の貧困のせいで才能を摩滅させるだろう予感と悲しみを「告別」という比喩で言い表しているのだ。

 そして映画のテーマと見事にダブる。


第36回●鈴木志郎康(1938〜)

第35回●吉増剛造(1939〜)

第34回●塔和子「風の舞〜闇を拓く光の詩」

第33回●田村隆一「恋の罪」

第32回●高村光太郎「智恵子抄」

第31回●室生犀星作品『あにいもうと』

第30回●宮沢賢治その3〜「グスコーブドリの伝記」

第29回●宮沢賢治、その2「モンスターズクラブ」

第28回●宮澤賢治、その1「わが心の銀河鉄道〜宮澤賢治物語」

第27回●紫式部(生没年不詳)

第26回●西條八十「人間の証明」

第25回●野口雨情(1882〜1945)

第24回●金子みすゞ(1903〜1930)

第23回●日本映画編「寺山修司」

第22回●ホルヘ・ルイス・ボルヘス「デス&コンパス」

第21回●マルグリット・デュラス「インディア・ソング」

第20回●シルヴィア・プラスの『シルヴィア』とテッド・ヒューズ

第19回●エドガー・アラン・ポーの『大鴉』から

第18回●パゾリーニの作品群

第17回●T・S・エリオット『愛しすぎて〜詩人の恋』

第16回●ウォルター・ホイットマン「いまを生きる」

第15回●R・M・リルケ

第14回●エミリー・ディキンソン「ソフィーの選択」

第13回●ランボー&ヴェルレーヌ『太陽と月に背いて』

第12回●プーシキン『オネーギンの恋文』

第11回●コールリッジ『愛と哀しみの果て』

第10回●E・E・カミング『ハンナとその姉妹』

第9回●W・H・オーデン『フォー・ウェディング』

第8回●チャールズ・ブコウスキー『酔いどれ詩人になるまえに』

第7回●パブロ・ネルーダ『イル・ポスティーノ』

第6回●ヨハン・ゲーテ『ゲーテ〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」』

第5回●ジョン・キーツ『ブライトスター いちばん美しい恋の詩(うた)』

第4回●イエーツ『ノーカントリー』と『ミリオンダラー・ベイビー』

第3回●ウイリアム・ワーズワース『草原の輝き』

第2回●フェデリコ・ガルシア・ロルカ『ロルカ暗殺の丘』

第1回●ジャン・コクトー『詩人の血』


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